【出典】この記事は「ダイヤモンドオンライン」に掲載された記事を転載したものです。
元記事はこちら:信じられない…『恋愛禁止』の人気アイドルが夜な夜な密会する、中年男性の正体とは|ダイヤモンドオンライン

探偵芸人が事務所スタッフの調査依頼に違和感を感じたワケとは(写真はイメージです) Photo:PIXTA
筆者は、吉本でお笑いコンビ「オオカミ少年」として活動する傍ら、探偵事務所の代表を務めています。探偵歴十数年で芸能関係の相談は、正直に言いますと他の探偵社と比べてかなり多いと思います。吉本芸人という立場上、いろんな形でご相談をいただきます。ですが「アイドルの恋愛禁止違反を暴いてほしい」と正面から言われたことは、意外かもしれませんが一度もありません。
そういったご相談は「守りたいんです」などと、もっときれいな言葉で来るのです。今回はアイドルの調査の実態について、お伝えできる範囲でご紹介します。(探偵芸人 オオカミ少年・片岡正徳/登場人物はすべて仮名)
恋愛禁止のアイドルに熱愛疑惑
探偵が事務所スタッフの言い分に抱いた違和感

芸人(吉本興業所属)、構成作家として「オールスター感謝祭」「さんま・玉緒のあんたの夢をかなえたろかSP」「ドラマでクイズ!THEキリヌキ」「笑神様は突然に…」などに関わる。片岡探偵事務所代表取締役。
「これは全て彼女のためなんです」
最近人気急上昇中の女性アイドルグループの芸能事務所担当者、羽並祐馬(はなみ・ゆうま、34歳)は終始、誠実で真摯な態度でした。
言葉は柔らかく声のトーンも落ち着いていて、目は真剣でした。
でも、不思議と瞬きをしないのが印象的でした。
「最近、うちの美里佳(みりか、20歳)に変なうわさが出ているんです。私は事実無根だと思っていますので、それを証明してあげたいんです」
「あげたい」という羽並氏の言い回しが、どこか引っかかりました。
「アイドル本人を守りたい」ではなく、「守ってあげる側の目線」に感じましたが、芸能界に身を置く者として「守る」という言葉の重みは理解できます。
アイドルグループ担当の
驚きの7割の仕事の中身とは?
美里佳さんは、グループのセンター候補として清楚なキャラで、恋愛とは無縁のイメージで売り出していました。
しかし週に一度、決まって同じ男性と会っているという情報が入ってきたそうです。
その相手は40代後半の男性で、都内の個室居酒屋で密会しているという情報が寄せられたのです。
「こういう話は珍しくありません」と羽並氏は神妙に語りました。
グループ内のポジション争いや、他のアイドルグループなどが、ライバルを引きずり落とすために画策することがあったり、心ないファンがデマか事実かわからないような情報を流したりと、アイドルグループの担当者の仕事の7割はそういった対策なのだそうです。
今回はグループのメンバーからの内部通報だったそうですが、もしスクープにでもなれば、グループ全体が揺らぎかねない状況のため、事務所としては慎重かつ早期に解決する必要がありました。
羽並氏の「黒なら事実の確認を。白なら誤解を未然に防ぎたいので、すぐに調査に取り掛かってもらいたいんです」という訴えに、私はその日から調査を開始しました。
美里佳さんは週に一度動くと言っても、曜日が決まっているわけではありませんでした。しかし今回は、美里佳さんの仕事を全て把握している羽並氏からの情報により動きが分かります。これはとても大きなことです。
仮に対象者が極度の警戒や、交通状況などで失尾(対象者を見失うこと)したとしても行き先がわかるので、回り込むことや別の調査員に代わることもできるのです。
動くまで毎日調査をする準備をして、現場に向かいました。
調査4日目のことでした。羽並氏の情報通りに仕事を終えた美里佳さんは、ライブ会場からタクシーで移動しました。
普段は事務所の車で送り迎えしますが、2日前から故障による整備のためにタクシーで移動することになったことにして、自由に動きやすくする作戦を羽並氏が発案したのです。代車が手配できなかったというストーリーも付け足すほどの周到ぶりでした。
事務所関係者の目から解き放たれた美里佳さんは、真っすぐに繁華街の一角にある、のれんのかかった個室居酒屋の前でタクシーを降りました。
後で精算の際に移動距離の矛盾が出ないのか?
タクシー会社に美里佳さんが降りた場所を照会されたら?
など、後で詰められかねない要因を残していると考える余裕もないほど会いたい人がいて、その人にのめり込んでいるのかもと、思案をしながら監視している間、美里佳さんはお店の前でスマホを操作していました。
その数分後、スーツ姿の男性が現れ、2人は一言、二言言葉をかわすと並んで店内に入っていきました。
並んで歩く距離は近く、目線を合わせながら笑顔で話す様子を撮影しながら「これは黒かな」と思いました。
この居酒屋は木造の古風な造りで、個室同士が障子で仕切られている、大人の隠れ家のようなお店でした。
私たちは幸運にも隣の個室を確保できました。
男性がテーブル越しに身を乗り出した!
ついに決定的な瞬間か?
壁に耳を当てると、時折会話が聞こえましたが、詳細までは分かりませんでした。しかし、美里佳さんも男性も、どちらも敬語がなくフランクな言葉遣いから2人が親密であることはよく分かりました。
よくよく個室の中を調べてみると、完全ではないにしても、隣室内の様子がうかがえる欄間の隙間を発見することができました。
カメラを仕掛け、2人の胸元からテーブルの上の様子を捉えることができたため、2人の動き次第では「黒の証拠」を押さえられる可能性のある態勢を敷くことができました。
カメラの映像を無線接続したモニターで監視していると、食事が進み、お酒が3杯目になった頃、空気が変わりました。
男性が、テーブル越しに身を乗り出しました。
美里佳さんは、うつむいていましたが、顔を上げました。
そして、男性が彼女の手を取りました。
顔は映っていないため決定的ではないにしても、男女が個室でこのような動きを撮られたら、弁解はとても難しい状況です。
写真だけを見れば「中年男性と密会するアイドル」
悪意をもって動画を切り取れば「手を握る恋人関係」
しかし、その次の瞬間、私は違和感を覚えました。
その違和感とは会話の内容でした。
周囲の個室の話し声が小さくなったため、障子越しに会話が聞こえてきたのです。
「お父さんによく似てきたな」という男性の声。
美里佳さんは涙声で「この写真、ずっと持っていてくれてたんですね」
男性が差し出した一枚の古い写真をカメラが捉えました。
3~4歳の小さな女の子を、30代前半くらいの男性2人が両方から抱っこしている写真でした。
その後の会話から、女の子は美里佳さん。男性の1人は今、美里佳さんの目の前にいる男性の若かりし日の姿。もう1人の男性は亡くなった美里佳さんの父親だったのです。
恋人かもと思われた男性は、美里佳さんの亡き父の親友だったのです。
男性は、美里佳さんが小学校の時は参観日に出席したり、アイドルとしてデビュー前のオーディションに落ち続けていた頃も、父親同然で常に支えてきた存在だったことが、2人の思い出話から理解することができました。
ずっとずっと、最低でも週に一度は晩御飯を一緒に食べにきていたのでした。
手を握ったのは、恋人同士のそれではなく、父を思い出して涙を流した娘を、支える“父の親友”の手だったのです。
炎上は避けられない証拠になり得ます。
完璧な調査を終えて報告
事務所担当者の信じられない言葉とは
居酒屋を出て羽並氏に報告しました。
「交際の事実は確認できず、親族同様の関係と判断します」
羽並氏は弾んだ声で「そうでしたか!それはよかった!安心しました。お手数ですが報告書をまとめていただきましたら、弊社にてご報告をお願いいたします」
私としても完璧な仕事ができたことに、とても満足しました。
2日後、報告書をまとめ終わり、羽並氏の都合に合わせて事務所に伺いました。
笑顔で迎え入れてくれた羽並氏に、報告書を提示して調査結果を説明しました。
笑顔を絶やさず最後まで聞き終わると、机をトントンと指先でたたきながら報告書を見直した後に「そうですか、ご苦労様でした」。その後に続いた羽並氏の言葉を私はすぐに理解できませんでした。
羽並氏「ちなみに、誤解を招くカットとかはありませんか?」
片岡「誤解?誤解を招くとはどういうことですか?」
羽並氏は無言で、A4の紙を渡してきました。
そこには「清純派の裏切り」「禁断の密会」「恋愛禁止の崩壊」などと書かれていました。
私の理解できていない様子に、羽並氏はちょっといら立ったように「この言葉に合うような映像はありますか?それっぽく見えるような加工が可能な映像でもいいんです」
私はやっと理解できました。
美里佳さんが黒だった場合の炎上用ニュース記事のタイトル案があり、それにふさわしい映像が欲しいということでした。
今回の調査は美里佳さんを守るためではなく、ゴシップとして使えるかどうかの確認だったのです。
「もし黒なら、話題になるんです!炎上も戦略なんですよね。片岡さんもゴシップ記事くらいご覧になるでしょ?ゴシップはグループを有名にするんですよね」
羽並氏の声は淡々として悪びれた様子はなく、むしろ合理的な口調でした。
無言の私に対して、羽並氏は明らかな作り笑いで「白なら白でいいんですよ。美談として使えますし。でも正直黒なら、もっとよかったです」
悪意はなく、計算だけがある態度と口調でした。
探偵芸人が熱愛ともとれる
2ショット写真を報告書に載せなかったワケ
私は、今回の調査目的である「恋愛禁止違反」の証拠に該当しないため、無駄な誤解を生むような手を握る写真は報告書から除外していました。しかし、調査結果の裏付けのために、男性が差し出した一枚の古い写真の場面は掲載しました。この報告書からは「恋愛禁止違反」は全く読み取れないものでした。それ以上に報告すべき写真はないことを伝えて、事務所を後にしました。
数日後、羽並氏から電話がきました。
挨拶もなく「本当に何もありませんか?距離が近い写真とか、切り取り方次第で印象は変わりますよね?」
その言葉は、質問ではなく誘導が目的でした。
事実探しではなく、黒に見せられる部分をまだ探していました。
私は「ありません」とだけ言って、沈黙しました。
羽並氏は不自然なほど静かな声で「なんとかならないですか?」と。丁寧な言葉の奥に焦りが滲んでいました。
私が沈黙を続けていると羽並氏は「これは美里佳が売れるためなんです! 彼女の将来のためです!」と懇願するような声で叫びました。
私には「彼女の将来のため」などと自分の正義で言ってしまう、自分を悪だと思っていない羽並氏は、明らかに美里佳さんの味方とは思えませんでした。
美里佳さんが守られていると思っている場所は、数字の計算しか考えていません。
敵は外ではなく味方の中にいるのです。
アイドルグループ担当者の暴走を止めた
普通に取り交わされる、調査の契約内容とは?
私は「事実以上のことはできません」と丁重に断りました。
電話の向こうで羽並氏の息が止まる音がして、しばしの沈黙の後、羽並氏は低い声で「そうですか」と言いました。
だが、その「そうですか」には、失望よりも、計算のやり直しが含まれていたように思えました。
私は「もし事実と異なる内容を調査報告の一部として使用されるようなことがあれば、それは探偵業法が禁じる違法目的での利用に該当する可能性があります。また、虚偽や誇張によって第三者の名誉を傷つけた場合には、依頼者ご自身が名誉毀損等の民事・刑事責任を問われる可能性もあります。契約時にも、調査結果を公序良俗に反する目的で使用しないことをご確認いただいております。調査報告の利用については、その点を十分にご理解のうえ、慎重にご判断ください」と言いました。
長い沈黙の後、羽並氏は「弊社としても事実以外のことを発信するわけないじゃないですか!」と明るく笑いながら、「また何かありましたらよろしくお願い致します!失礼しまーす!」と電話を切りました。
その後、注意して美里佳さんのニュースやSNSなどを見ていましたが、ゴシップになるようなことはありませんでした。
これまで「暴いてほしい」と言われたことはありません。「助けるために調べてほしい」と、何度か相談されました。
探偵業法にもある公序良俗に反する場合は、調査の中断や結果をお渡しできないことを、契約時に念入りに認識を合わせて契約しています。
探偵の調査結果は依頼者を助ける武器になりえます。
使い方次第では、対象者を陥れる武器にもなります。
それを手にする依頼者の本当の意図を見抜くのも、探偵にとって必要なスキルです。
「調査結果の正しい使い方を徹底する探偵」。 点と点が線になる探偵トークでした。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。
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