【ダイヤモンドオンライン】『ビジネスパートナーが怪しい』尾行調査したベテラン探偵3人をまいたバイク男の正体

【出典】この記事は「ダイヤモンドオンライン」に掲載された記事を転載したものです。
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バイクで移動する調査対象者を尾行するのはベテラン探偵でも苦労する。さらに今回の対象は…(写真はイメージです) Photo:PIXTA

筆者は、吉本でお笑いコンビ「オオカミ少年」で活動する傍ら、探偵事務所の代表を務めています。私の探偵歴十数年の中でさまざまな調査の相談を受けました。今回ご紹介するのは、巧妙に嘘を重ね、依頼者を欺こうとしたビジネスパートナーの正体を暴いた、緊迫の尾行調査の案件です。(探偵芸人 オオカミ少年・片岡正徳、登場人物はすべて仮名)

若き実業家からの依頼
ビジネスパートナーに不審な点

 片岡探偵事務所のドアを叩いたのは、若き実業家、辻岡大(つじおかだい・28歳)さんでした。

 辻岡さんの顔には、ビジネスマンとしての鋭い眼光の奥に、拭い切れない不安と疲労の色が深く刻まれていました。テーブルの上で指を組み切実な口調で語り始めました。

「新しいビジネスを共同で進めている相手がいるんです。仲間諭(なかまさとし・44歳)さんは、非常に魅力的なプレゼンをする方で、私も最初は彼のビジネスセンスに魅力を感じました。しかし、話が進むにつれて、どうも腑に落ちない点が増えてきたんです」

 辻岡さんの話は、仲間氏の不可解な言動に集中していました。

「最初に聞いた現住所と、数週間後に彼が何気なく口にした現住所が食い違っていたり、出資金の配分について、私に不自然なほど多くの負担を求めてきたりしたことで疑念が湧いてきました。事業計画もいくつか気になる点があるんです」

 辻岡さんは、分厚い事業計画書を示しながら疑念のポイントを説明してくれましたが、守秘義務に抵触する箇所なので説明は控えます。

「仲間氏の言葉はいつも流暢で自信に満ち溢れていますが、その瞳の奥に、私を値踏みしているかのような冷たい光を感じるんです。彼はビジネスパートナーとして本当に信頼できる人物なのでしょうか?このまま彼と組んで、もし何かあったら私の会社は、そして私の人生はどうなってしまうのか考えてしまうんです」

 辻岡さんの言葉には、ビジネス成功への大きな期待と、裏切りへの深い恐怖が入り混じっていました。

 私は、辻岡さんの不安に揺れる瞳を見つめながら言いました。

「不安を解消し、真実を明らかにすることが我々の仕事です。仲間氏が実際にどこに住んでいるのかを突き止めることをお勧めいたします」

 これは単なる住所特定の調査ではなく、辻岡さんのビジネスや人生を左右する、極めて重要な調査になると感じました。

 依頼を受け辻岡さんと作戦会議を行いました。

通常より手厚い
尾行体制にした理由

 現住所を割り出すためには、仲間氏の面取り(対象者を特定すること)が必須なので、辻岡さんに仲間氏を呼び出してもらい尾行するという作戦を立てました。

 仲間氏が詐欺目的の人物なら、警戒心が強いことが想定されます。移動方法も特定できておらず、徒歩・車・バイク・自転車・公共交通機関・タクシーなど多くの選択肢を想定する必要があります。

 今回は通常よりも手厚い尾行体制が必要と判断し、徒歩や公共交通機関担当1人・車担当1人・バイク担当1人の、合計3人体制を準備しました。

 徒歩と公共交通機関は私が担当し、田中を中型スクーターのバイク担当、宮本を車担当に配置しました。両人とも数々の修羅場を潜り抜けてきた信頼できるベテラン調査員です。

 調査当日の18時に四谷にある居酒屋で、仲間氏と辻岡さんの社員2人との計4人で打ち合わせの場を設けてもらいました。
 17時44分、私たちは配置につきました。車担当の宮本は居酒屋から少し離れたコインパーキングに停車し、バイク担当の田中は目立たないように路地裏でバイクで待機、私は店の出入りを監視します。

 面取りのため、辻岡さんは店の前で仲間氏の到着を待っています。

 居酒屋の周辺状況が確認できる宮本からインカム越しに「片岡さん、周辺と通行人に異常なし。対象者の来店ルートを複数想定し、監視ポイントを確保済みです」

 私は応じて「了解。こちらは辻岡さんが見えている。対象者は間もなく現れる。集中力を切らすな」

 静かな緊張感の中、私は仲間氏が来るのを待ちました。

調査において大事な面取りは、最も神経を使う局面の一つです。対象者がいつ、どこから現れるか分からない。一瞬の気の緩みが、その後の調査全体の成否を分けるのです。

 仲間氏の顔写真や特徴を頭に叩き込み、四谷の街を行き交う人々の中から彼の姿を探します。

 張り込み開始から約30分後、ついに仲間氏が姿を現しました。徒歩で店の前に到着し、辻岡さんと一言二言交わして店内に入りました。

 宮本から「片岡さん、仲間氏は東側から徒歩で到着しました。交通手段は不明です」との連絡が入りました。

 私は辻岡さんにメッセージを送りました。「仲間氏を確認しました。移動手段を聞き出していただけますか」。すぐさま「了解です」と返事が来ました。

調査対象者の移動方法は?
ベテラン探偵たちの連携

 居酒屋での会食は、ビジネスの交渉の場としてはもちろん、互いの腹を探り合う、心理戦の舞台でもあります。辻岡さんが抱く不信感が、この会食でどのように解消されるのか、あるいは決定的なものとなるのか。我々はただ、彼らの動向を静かに見守るしかありません。そして、3時間が経過して、辻岡さんから「出ます」とメッセージが来ました。

 すぐさまインカムで宮本と田中に伝えました。しかしまだ移動手段が確定できていないため、私は田中に「バイクを押して移動できるようにして、仲間氏の動きに対応できるようにしてくれ」と伝えると、田中から「了解です」と返事がありました。

その後、辻岡さんから「バイク」とメッセージが来ました。どこにバイクを停めているのか、誰かが迎えに来るのかは分かりませんが、宮本と田中に伝え、全員が仲間氏の行動に即応できるように準備しました。

 5分後に仲間氏と、辻岡さんと社員の2人が店から出て来ました。

 彼らは店の前でしばらく談笑した後、仲間氏だけが新宿通りを歩き出しました。

 私はインカムで状況を共有しながら仲間氏の二十数メートル後方で尾行を開始しました。その十数メートル後方を田中がバイクを押しながらついて来ています。さらにその後方から宮本の車が超低速でついて来ます。

 我々は慎重に距離を保ちながら、インカムで常に連携を取りながら、彼の動きを追いました。しかしその道中、仲間氏が見せたある行動に我々の間に微かな、しかし確かな緊張が走りました。

 仲間氏は新宿通り沿いを歩き続けていましたが、200メートルを超えたあたりから、明らかに歩く速度が速くなりました。

 さらに、まるで背後に誰かいないかを確認するかのように、ショーウィンドウに映る自分の姿を一瞥し、その直後、不意に振り返ったのです。その視線は、一瞬、我々のバイクや車を捉えたように見えました。

 プロの調査員にとって、この一瞬の動作は決して見逃せないサインです。対象者が警戒している、あるいは尾行を察知している可能性を示唆する明確な行動でした。

都内ならではの事情も
バイクの尾行の難易度が高い理由

 私はインカムで静かに伝えました。「田中、宮本、対象者に振り返りあり。このまま追うから、宮本は姿を消してくれ。田中は倍の距離を空けて追って来てくれ」

 宮本の車はすぐに左折して、再び新宿通りに戻り、300メートル以上は距離を空けて超低速で、田中は歩道から車道に移り30メートルほどの距離を空けて、仲間氏ではなく私の姿を追う尾行方法に変わりました。

 熟練の調査員は短い指示でも即座に意図を汲み取り適切な対応ができるのです。

 仲間氏の姿を捉えているのは私だけです。絶対に見落とすわけにはいきません。警戒度を考慮して慎重に尾行を続けていると、コインパーキングに駐輪されていた一台のバイクに歩み寄りました。

 仲間氏はヘルメットを装着しバイクに跨りエンジンを始動させました。

私はインカムで「仲間氏が前方20メートルでバイク乗車、田中は追いの準備を。宮本、俺を乗せてくれ」

 ここから、尾行の中では特に難易度の高いバイク尾行が始まったのです。

 仲間氏のバイクが新宿通りに出て、西に向けて発進した瞬間、田中のバイクが追尾を開始し、私も横付けされた宮本の車に乗り込み、追尾を開始しました。

 都心の道路は、予測不能な要素が満載です。信号のタイミング、タクシーなど他の車両の流れ、割り込みのような車線変更、信号や横断禁止を無視する歩行者などの要素があり、対象者の動きを予測し、常に最適な距離と位置を保つ必要があります。

 さらにバイクは車の死角に入りやすく、小回りが利くため、追跡は常に神経をすり減らす、高度な技術と集中力を要する作業となります。

 その上、仲間氏の警戒行動はバイク走行中にも見られました。

調査対象者の思わぬ行動
ベテラン探偵でも追えなかったワケ

仲間氏を追尾する田中からインカムで「頻繁にミラーで後方を確認しています。かなり警戒してます」

 私は答えて「了解、次の交差点を左折しそうだから、曲がったら後方につける、そのタイミングで車の後ろに入って、仲間氏の視界から姿を消してくれ」

 バイクを追いきるために、最後の最後はバイクが絶対に必要になるので、なるべく視界から消えて印象を残さないようにするのです。

 インカムでの短いやり取りで連携を取りながら追い続けると、仲間氏のバイクは甲州街道から環状八号線へと入り、世田谷区方面へと向かいました。

 ここから仲間氏の警戒行動は、さらにエスカレートしていきました。

 走行中、彼は頻繁にバックミラーを覗き込み、後方の様子を執拗に窺っています。時には、車線変更を繰り返したり、急に速度を落として後続車をやり過ごしたり、あるいは何の変哲もない路地で突然停車し、ヘルメット越しに周囲を鋭く警戒する素振りを見せることもありました。

 これは明らかに過剰な警戒行動でした。

 その度に、我々はインカムで状況を共有し、交互に視界から消えたり、信号停止中は道路脇に停車したりしながらなんとか追尾を継続しました。

 追尾を開始して約30分後、環状八号線の大きな交差点に差し掛かる時、仲間氏のバイクは左端の車線を走行しており、1台車を挟んで私が乗る車と田中のバイクが追尾していました。

突如仲間氏は思いもよらぬ行動にでました。赤信号で停まると、黄色い実線(原則として車線変更・追い越し禁止)を越えて、4車線の一番右端の車線へと横断したのです。急ブレーキを踏んだ後続車のクラクションが鳴り響きました。

 それは明らかに道路交通法違反で、あまりにも無謀で危険な運転でした。さらに仲間氏はバイクを降り、エンジンをかけたままバイクを押し、反対車線へと渡り、そのまま夜の闇へと消えていったのです。

 我々の追跡を完全に振り切ろうとした危険を顧みない行動でした。

 探偵は交通ルールを遵守する以上、赤信号を無視して追跡を続けることはできません。

すぐさま辻岡さんに連絡をしました。「仲間氏の追尾不可能な行動により、見失いました。申し訳ありません」

 辻岡さんは「それほどまでに警戒するとはますます怪しいですね。調査員のみなさんが無事でよかったです。実は事業内容と出資額を見直して納得できるものにはなったので仮契約を交わす予定なのですが、念の為現住所は確認しておきたかったですが、残念です」

諦めるわけにはいかない
周辺調査を続けることに

 しかしプロの探偵として、すぐに諦めるわけにはいかないと思い私は「仲間氏は居酒屋を出た直後から警戒しており、尾行も完全に想定していました。そして振り切りにかかったのは現住所に近くなったからだと思います。焦りのあまりの行動だとすれば、だいぶ近づいてるんだと思います。周辺調査をさせていただけないでしょうか?」

 辻岡さんは了承してくださり、我々は直ちに、最後の目撃地点である交差点周辺から周辺調査を開始しました。

 バイクが向かったであろう東方向の道路、そして周辺の路地裏まで、あらゆる可能性を考慮して捜し回りました。しかしどこにも見当たらず、約1時間後周辺調査を断念しました。

 翌日私は、辻岡さんから了承を得て別の方法での調査に取り掛かりました。手元にある情報から自宅を割り出す探偵独自の情報調査です。仲間氏についての情報は、バイクのナンバープレート・年齢・そして見失った交差点の周辺であろうという予想だけです。名前は偽名の可能性が高く、あてにはできません。

 しかし、この情報こそが真実へ導いてくれたのです。

現地調査の予定をキャンセル
あるツールで特定、使ったのは?

 我々は、まず交差点から半径2キロメートル圏内の全ての住居データを、独自のデータベースと照合しました。そして、その中から「44歳の男性」が居住している可能性のある世帯を、全てリストアップしたのです。その数、実に894軒。一見、途方もない数に思えるかもしれません。しかし、闇雲に捜索するのに比べれば、これは大きな前進です。

 この894軒のリストからさらに絞り込むために「Googleマップ」のストリートビュー機能を使いました。

 辻岡さんからの情報で、仲間氏は20年以上バイクを愛していて、いつかはバイクで日本一周をしたいそうで、自宅玄関の前にいつも停めていて、帰宅すると必ずメンテナンスをするそうです。

もしかしたら、ストリートビューでバイクが置けそうな家かどうか絞れるかもしれないと考えたのです。

 リストの順番に手分けしてストリートビューで確認していきました。その結果167軒までに絞ることができました。それを元に現地での確認調査をする予定でしたが、別の調査の予定があったため3日後に予定して辻岡さんに進捗状況を伝えました。

 結果からいうと、現地調査をするまでもなく仲間氏の現住所を割り出すことができました。割り出した方法はタイムマシン調査とでも言うべき、意外な調査方法でした。

 Googleマップのストリートビューには、過去に撮影された風景を閲覧できる機能があることをご存じでしょうか?私は別件調査の合間を見つけては、リストアップした167軒の住居、その一軒一軒のストリートビューを、数年前にまで遡って確認したのです。

 これはある意味暇つぶしでしたが、少しでも見つける手がかりがあればと思っての行動でした。

地道で根気のいる作業でしたが、私の執念が奇跡を呼び起こしたのです。

 151軒目の一軒家の、数年前に撮影されたストリートビューの画像に、私の目が釘付けになりました。その家の玄関前に、見覚えのあるバイクが映り込んでいたのです。ナンバープレートはぼかされていましたが、仲間氏のバイクに酷似していました。

調査対象者の正体
若き実業家のビジネスの行方は

私は調査終了後、すぐさまその一軒家へと向かいました。閑静な住宅街に佇むごく普通の一軒家。その玄関の前にはあのバイクがあったのです。

 ナンバープレートを確認すると、仲間氏のナンバーそのものでした。玄関には仲間氏ではない表札が掲げられていました。

私の胸の奥から、達成感からくる熱いものが込み上げました。

 すぐに報告書をまとめ辻岡さんに報告しました。

 その仲間氏の本名を元に辻岡さんがビジネス仲間に聞き回ってみたところ、過去に新聞沙汰にもなった詐欺事件の首謀者であったことが分かったそうです。刑事罰を受け服役していたことも分かり、ビジネス関係を白紙に戻すという、極めて重要な判断を下す上で、決定的な材料となったのです。

 辻岡さんからは「本当によく調べ上げてくださいました。ありがとうございました!」と固い握手と共にお礼の言葉をいただきました。

 依頼者が抱える出口の見えない不安や、拭い切れない疑問に対して真実という明確な答えを提供することが探偵の仕事です。

 依頼者が次のステップへと、力強く進むための道筋を示すことができることは私にとって誇りです。

 今回の調査は、対象者の異常なまでの警戒心の高さ、そして予期せぬ追跡困難という絶体絶命の状況でした。しかし、我々は長年の経験と、決して諦めない執念で真実という一筋の光を掴み取ることができました。

 もし、あなたが今、誰にも言えない不安や悩みを抱えているのなら、どうぞ、お気軽にご相談ください。我々が、あなたの「知りたい」に、必ず応えます。

「異常なまでに警戒する対象者の真実を見つけ出す探偵」。点と点が線になる探偵トークでした。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。

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